MILES DAVIS AT FILLMORE


jacket IMGマイルス・デイビス、1970年、FILLMORE EASTでのライブ。
チック、キース、ホランド、ディジョネット、グロスマン、アイアートという泣く子も黙る強力メンバーである。
このバンドよりすごい音を出すバンドがいたら、ぜひ教えて欲しい。
リアルタイムから数年と違わずに聴けたマイルスは、「ビッチェス・ブリュー」、「オン・ザ・コーナー」、「ジャック・ジョンソン」「イン・コンサート」「ライブ・イービル」とこの「フィルモア」あたりだが、私はこのフィルモアの演奏が一番インパクトを受けた。

とにかく圧倒的な演奏。圧倒的な即興性である。ロン、トニー、ハンコック、ショーターの時代の演奏も4ビートジャズ・スタイルの極致までたどり着いたと思わせる、超絶的なものがあったが、次のこの時代もさらに強力。それまでが針の穴を通すシャープでクールな演奏とすれば、ビッチェス以降のこの時代は180度視界の開けた宇宙的空間を自由に飛び回るパワーと空間の歪み、といったところだろうか。左チャンネルからワウワウをかましたハモンドで強烈なノイズをかまし続けるキースジャレットのアナーキズム。右から来るリングモジュレーターとファズボックスをかましたローズで意味不明なフレーズをぶつけるチックの破壊性、後方から超高速に爆裂と収縮を繰り返すディジョネットの動物性、うねうねとキレタと思ったら不気味なブラックリフでムードを一変させるホランドの確信犯的分裂性、その中心で泳ぐマイルスの悪魔的に美しい黄金の旋律。

30年も前にJAZZはここまで行き着いて、ここからさらに、ウェザーリポート、サークル、とまた別なカタチを生んでいくわけだ。
ロックに押されてJAZZは停滞していた時代などと評されていたが、少なくともマイルスだけは違った。
何万という血の気の多い、マイルスが何者かも知らないロックファンを相手に、こんなすごいJAZZを聞かせていたのだから、前進だけじゃない、しっかり時代にシンクロさせてJAZZを伝統芸能として忘れ去らせなかった大変な仕事をしていたわけだ。
それにしてもこのビッグバン寸前の直径1ミリに収縮した宇宙のような密度と、100万光年と中性子の間を瞬時に行き交うスピードは一体何なんだ。

ロックリズムの導入というが、基本的にはポリリズムがベースにあり、状況によって、というか曲が次々に変わり、ファンクになったり、フリーになったりする。
突然ディジョネットが恐ろしくシャープな4ビートのレガートをかましてくると、ホランドもすかさず、すばらしいスピードのウォーキングでついていったりもする。なぜかロックファン、ここで沸く。
この非常に大きいノリのリズムの中で、キースとチックは自由を満喫している。
キースのワウワウ・ハモンドは時にディストーション・ギターのようでもあり、ミニ・ムーグのようでもあり、常に攻撃的だ。
チックのハーモニーは、この時既に洗練されている。かつ、サークルを結成する直前でもあり、事あるごとにフリーの方向へ走っていく。
そういった空間を支配するマイルスの音楽的な統率力は類を見ない。
自由であり、スタイリッシュなマイルス・ミュージックというジャンルを作っている。

しかし、ふと思ったのだが、こういうコンサート、このバンドが出た後に、レッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンが出てくるということもあるわけだから、いやはやスゴイ時代だ。まったく。


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