中学生の時。御茶ノ水ディスク・ユニオンでチック・コリアの「RETURN TO FOREVER」と一緒に買った。こちらの方はもう有名で、評価も出尽くしているからどうでもよい。実は私にとっては「CROSSINGS」の方がはるかにインパクト強かった。しかし、一般的にはこの頃のハンコックは不振の時期とされていて、このアルバムもほとんど評価のテーブルにも登ってこない。「処女航海」以降、「電化ジャズ」にうつつを抜かし、商業主義に陥った安易なアルバムを連発、ということらしい。しかし、この2枚あとに発表される「ヘッド・ハンターズ」で大ブレイク。ブラック・ファンク大流行とともに大もうけ。なぜか評価もうなぎ上り。ファンク大明神にされてしまう。確かにヘッド・ハンターズもいいレコードだが、この「CROSSINGS」の幽玄でストーリーのある演奏は、他のハンコックのレコードにはないものである。A面は「スリーピング・ジャイアント」というハンコックの大曲、B面は、ベニー・モウピンの「クエイサー」と「ウォーター・トーチャー」というただならない2曲。(これが意外によい)
楽器構成はビリー・ハートのドラム、バスター・ウィリアムスのウッド・ベース。フロントはエディ・ヘンダーソンのトランペットにジュリアン・プリースターのトロンボーン、ベニー・モウピンのサックス。ハンコックも生ピとローズがメイン。(時々ソリーナのストリングスとメロトロンを使う。時代もの)この編成に加え、影武者としてパトリック・グリースンがムーグ・シンセザイザーで参加している。機軸のメンバーから考えれば、純ジャズの音が連想されるが、パトリックの参加によって、かなりプログレ風味にしあがっている。しかし、革新的なのはそれだけが理由ではなく、様々な形に展開する構成、ハーモニー、ホーンのアレンジ、リズムのキメなどに工夫が凝らされており、ジャズの形式を拡大し、その曲のタイトルからもわかるように標題音楽の意図を持って作られているからだろう。かつ、マイルス・ミュージックの持つ自由なスペースが引き継がれていて、各人のソロもなかなかいい雰囲気を出している。
また、シンセを使いつつも、エディ・ヘンダーソンのグロウ・トーンによる水泡の表現、ベニー・モウピンのフルートによる鉄のきしみ音など、生楽器で幽玄な雰囲気を出すことにも成功している。そして、ハンコックの漂うような調性の不明確なハーモニーが神秘性を演出している。B面の最後の方では、ストリングスとメロトロンによる女性コーラスの分厚い和音で、まるでSF映画のエンディングのような(「アビス」で海底人の巨大な基地が海上に浮かび上がるエンディングのような)壮大さを出しながらエンディングはキッチリJAZZの語法で終わるところなんざ、ハンコックの行儀のよさがすごく現れている。
このレコードでハンコックは、おそらくマイルスの「ビッチェス・ブリュー」を経て確信されたポリリズムと、音響効果的色彩としての楽器の使い方をベースに「スピーク・ライク・ア・チャイルド」を再構成してみたかったのではないか。結果、極彩色な鳥の羽根飾りをつけた原住民の「スピーク・ライク・ア・チャイルド」になった。