“泰安洋行”   細野晴臣


Jacket IMG高校2年ぐらいから、オリエンタルな魅力にとりつかれ始め、インド・ショップなどへ行ってはお香を買ったり、インド哲学など、読みかじるようになり、ブラフマン、アートマンにウパニシャッド。そこから拡大していってエキゾチックなムードにどんどんあこがれるようになる。映画だとパゾリーニの「アラビアンナイト物語」。東洋合理思想、マンダラ、タントラ、その辺はちょっとアカデミックな香りもあったのだが、ヨジレマイオス、いかがわしい東洋へ流れ着く。原宿の「オリエンタル・バザール」などへ行ってはキッチュなおみやげなどに喜ぶ。そういった志向に実にはまったのが、ホソノさんの「泰安洋行」であった。

細野晴臣さんといえば、日本の音楽王。世界中の音楽に精通した探求者である。「泰安洋行」は1976年の作品。はっぴぃえんど、ティンパンアレイで、ほぼPOPSの最先端な部分はやりつくしてしまい、アンチPOPSなソロワークへ足を踏み出してからの3作目である。まず細野さんは、蓄積してきたハリウッドスタイルとファンクの融合を試みる。ジェームス・テイラーとスライ&ファミリー・ストーンとバン・ダイク・パークス。デューク・エリントン。これが「HOSONO HOUSE」。次にトロピカル(南国楽園志向)とニューオルリンズはドクター・ジョンを合体させる。これは「トロピカル・ダンディー」。

トロピカルという言葉も、ホソノさんや、久保田麻琴氏が提唱し始めた頃はまだ、真っ白い砂浜、珊瑚礁に椰子の木、ハイビスカスを髪に飾ったヒノテル子、間違えるとジャングルに猿の泣き声がコダマする、というぐらいエキゾチックだったのだが、高中正義氏が「セイシェル」を出し、浅井晋平氏が波の音のレコードを出しているうちに、サンゴの白化現象が始まり、砂浜にはビーチ・パラソルが立ち並び、島には民宿が次々に開業。夜はビーチでナンパ花火大会。カフェ・バーの天井には扇風機が意味なく回り、サントリーが缶入りトロピカル・ドリンクを出すに至って、世の中のトロピカル・コンセプトは「砂まじりの茅ヶ崎」にとってかわる。

そして次が「泰安洋行」。ここで、ホソノさん、そういった風潮を振り払うかのように、奥地に進む。ジャングルの奥地には、先住民族マーチン・デニーがいた。マーチンはハワイ在住の作曲家。そのコンセプトは完全にアメリカ人から見た、間違った東洋のエキゾチシズムを逆手にとるもの。ドラは鳴るは、鳥は鳴くは、猿は叫ぶは、琴に三味線にマリンバ。どうやら、ホソノさん、これを幼少の頃より暖めていたらしい。このレコードでも2〜3曲カバーしている。しかし、私はこのレコードを聴いた時、マーチン・デニーを知らなく、ホソノさんのオリジナル・コンセプトと思っていたので、後年いささかがっかりしたものだが、いずれにしろ、その頃はまっていたオリエンタリズム志向にどんぴしゃであった。セカンドラインと沖縄民謡の蝶々さん、サザン・ソウルに和平飯店、カリブにハワイ、47抜き26抜き、陽旋法、陰旋法、ブルーノート、ドリアン・モード、外人芸者も水兵さんも、人民軍も坊さんも、フルシチョフもカストロも、社長さんもモーむすも、赤坂ラテンクォーターでラインダンス、(こういう言い回し、やたら多いすね。ワタシ)とにかく、このなんでもありのインチキ臭いイメージが最高であった。

それまでの日本人の感覚でいうと、外国に対するあこがれは強くあるものの、それをパロディ化する余裕はまったくなかったといえよう。日曜の午前中に「兼高かおる世界の旅」を見てためいきをつき、高度成長で海外旅行ができるようになってもおのぼりさんの意識は抜けない。外国の社会の教科書に載っているチョンマゲにネクタイの日本人に烈火のごとく反応する。(日本人なんて、そんなようなものなのに) 日本人音楽も外国に追いつき追い越せで、自分の国を見直す余裕などなく、あってもオリエンタリズムを大マジメで前面に出して商売するしかなかった。しかし、ホソノさんは、このひがんだ島国根性を楽々飛び越える。日本人である自分を日本の外から、いや地球の外から見て、他の国とイーブンに位置付けて遊んでいる。結果、どこの国にも属さない、「チャンキー・ミュージック」ができあがった。
「泰安洋行」は民族音楽を素材に使いながら、まったくもって無国籍な音楽であり、ホソノさんのとぼけたキャラと優れた音楽的知識によって実現した「度が過ぎた冗談」である。

しかし、この後「はらいそ」で、さらにガムランやマンダラ風宗教的宇宙観への進展していくのはよかったが、シンセサイザーの使用が増え始め、クラフト・ワークとの同調性から、一気にYMOに行ってしまう。世の中からは、圧倒的な支持を受けるが、私にとってはしばらくのお別れだった。時にはシンセもいいけど、全部シンセじゃシャレがきつすぎる。しかし、世の中の熱が冷める頃、YMOは、「BGM」や「テクノデリック」という名盤を世に出し、付和雷同の大衆を突き放す。さすがホソノさん、音楽王。時代と音楽で遊んでるね。


<ベスト50に戻る>  次へ  前へ