“DIANA” IN “NATIVE DANCER”
WAYNE SHORTER


Jacket IMG1974年に発表された、ブラジルの宝石、ミルトン・ナシメントとともに作られたショーターの傑作、「ネイティブ・ダンサー」からの一曲である。ピアノの上にローソクを立てて作曲すると言われたショーターの黒魔術神秘主義路線はこの作品で払拭される。全編、素朴で少年のような輝きに満ちているミルトンの楽曲と歌声と、ショーターの実に鮮明で宇宙観のあるソプラノが見事な融合を見せ、聴くものを陶然とさせる1枚である。「DIANA」はアイアート・モレイラとフローラ・プリムの間に生まれた娘、ジアナにささげられている。なんとも透き通るような美しいメロディとショーターらしい不思議なハーモニーを持った曲で、ショーター自身のソプラノも、究極の表現力で、このメロディーを丁寧に歌い上げる。私の考えるソプラノの理想的なスタイルがこの曲には凝縮している。やはり、コルトレーンやリーブマンのような、アナーキーなソプラノより、このショーターのような、切々と、音色やメロディやハーモニーを楽しみながら、漂うソプラノに共感を覚える。

ショーターのソロは(ジアナではソロをとっていないけど)童謡のように、シンプルなメロディで空気を作る。しかし、実は単純ではない。歌えないケースもある。シンプルのようでいて、絶妙のハーモニー・センスから出てきたラインであり、リズムが本当にわかっていなければ歌えない大きなグルーブで、フレーズを紡ぐ。そして、パーカー風バップ・フレーズでもなく、コルトレーン風モーダル・フレーズでもなく、ショーター節とも言える独特な旋律を、時にクラシックのエチュードのようなラインを彷彿とさせたり、3〜4音の短いパターンを多面的に展開したり、倍音列を巧みに利用したりしながら、音楽全体に溶けこませていく。

さらにショーターの音には息を感じる。サックスというメディアを通過して聞こえてくる、彼自身の息だ。生で聴くと、会場が彼の息で満たされていくのを感じる。そういうスタイルがそれまでのショーター=神秘性にもつながり、また、このアルバムのように少年のような純朴さを表現することも可能にするわけだ。

このレコードでは、「DIANA」の他に「ANA MARIA」というショーターの名曲も収録されており、こちらもすでに高い評価を得て、スタンダードにならんとしている。「ANA MARIA」はショーターのブラジル出身の奥様の名前だ。ミルトンとのアルバム制作は彼女の手引きによるということは有名な話である。ショーターとミルトンの中に国や音楽ジャンルを越えて結びつく歌を感じたのだろう。(彼女は数年前、飛行機事故で他界した)そして、ミルトンはかねてよりマイルス・ミュージックを尊敬していた。そうした意味からも、二人の共演は時間の問題だったようにも思える。また、この2つの歌を結びつけるのに、ハービー・ハンコックが一役買った。ハンコックの漂うようなハーモニーと絶妙な空間演出が、2つの歌をより一層結び付け、絵の具を混じり合わせるキャンバスを提供した。その結果、独特の色彩の、一種懐かしさを感じさせるような音楽が出来上がった。その音楽の魅力はパット・メセニーがこのレコードからインスパイアされたということからも窺い知れる。パットのサウンド・コンセプトはこの「NATIVE DANCER」抜きには語れない。


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