“Autumn Leaves” MILES IN BERLIN


JacketIMGトニー、ロン、ハンコック、ショーターを率いたマイルス・クインテットの最高傑作というと異論もあろうが、トニーの爆発的スピードと閃き、冷静なペースメイカー、ロン、そしてマイルスの指導のもと、めきめきとそのハーモニー感、リズム感を熟成していったハンコックが、ライブを重ねる毎にその濃密な会話を深めていく過程の中で、このバンドにはもうひとつの求心力が必要となっていったということを考えると、ショーターの参加という点で、前ライブ、「イン・トーキョー」と「インベルリン」との間には大きな違いがある。

マイルスバンドのサックス奏者には非常に大きな期待が寄せられる。マイルスがゲームメイカーなら、サックス奏者はストライカーといえるだろう。マイルスはパーカーのもとでやっている時にサックス奏者に対するなんらかのイメージを抱いたはずだ。それがコルトレーンやキャノンボールにも乗り移り、マイルスバンドのサックス奏者としての重責を果たす使命を与えられ、マイルスのコンセプトをさらに推し進めることを許される。

ショーターが参加する前のサックス奏者、ジョージ・コールマンははっきり言って、マイルスの期待には応えていなかった。若いメンバーからも不満の声が出ていた。コールマンのスタイル、特にリズムの捕らえ方は古い。すでにポリリズミックなアプローチを完成しているリズム・セクションにとって、コールマンのバップ的なリズム・アプローチは退屈だった。(もっとアウトして、3連4つどりやってガシガシかき混ぜてほしい。みたいな)ショーターの登場はバンドにとって、本当に待ち焦がれたものであった。バンドは退屈なサックス奏者をさておいて、「FOUR&MORE」、「IN EUROPE」、「IN TOKYO」と着実に表現の幅を広げていった。(IN TOKYOはトニーが連れてきたサム・リバースだったが、バンドに対する影響力は大したものではなかっただろう)

「IN EUROPE」あたりでは、バンドの丁丁発止のコラボレーションは最高で、緩急自在、会話のやりとりも饒舌、現代のジャズ・コンボ表現の頂点を示したといっても過言ではないだろう。ここでの枯葉は、元気いっぱいである。マイルスのテーマ導入の駆け上がりの勢いをそのままキープし、早めのテンポでぐいぐい進む。マイルスも意欲的なソロ、ハンコックもバシバシ合わせていく。ところが、「IN BELRIN」の枯葉はちょっと雰囲気が違う。まず、ヨーロッパと同じようにマイルスは駆け上がるが、ロン・カーターが減速を図る。テンポがぐっと遅くなる。マイルスもそのテンポにのり、陶然としたソロで漂う。ハンコックもおそらく、鍵盤に顔を近づけ、厳選した音使いで成り行きを見守る。全員で次に出てくるショーターを待っているような瞬間が流れる。ジョージ・コールマンの時はなかったような緊張感がバンド全体を包む。

そして、マイルスは自分のコーラスを終え、次のコーラスの頭でいつものように、爆発的に盛り上げ、サックスにソロを渡す。バンドもショーターの登場に沸き立つ。トニーがブラシからスティックに持ちかえる。ショーターのすばらしいソロが始まる。見事な構成力と大きなノリで、明らかに今までと違う枯葉を表現する。バンドに気持ちの良い一体感(ギスギスしていない)が生まれる。ずっとこの瞬間が続いて欲しい、と演奏者も観客もそう願うに違いない演奏が続く。裏コードを使い、3連や独特のタンギングによる16分音符でソロを紡ぐショーターが4コーラス目7小節めに差し掛かった時、ロンカーターのEペダルをきっかけに、ハンコックがAボトムのクラスター・コードの付点四分音符と八分音符による3拍フレーズを仕掛ける。枯葉コード進行と関係なく、そのコードを延々持続する。ショーターは最初枯葉を維持するが、(多少最初のライブ・レコーディングでショーターが遠慮しているのは聞いてとれる)そのコードが延々24小節、3拍フレーズ32回にわたるしつこさで来る、というその覚悟が共有できた瞬間、最後の8小節、ショーターがその後のバンドの方向性を指し示すようなメロディを提示する。もはやそこには枯葉はない。おそらく、マイルスはこの最後の8小節を聴いて、このバンドでスタンダードをやり続ける必要がなくなったと、感じたことだろう。実際、この後はショーターのオリジナルを中心にバンドサウンドが形成される。5コーラスめのアタマで、その枯葉でない不思議な世界から、枯葉に戻ってきたところでハンコックのソロ。ハンコックはいましがたのショーターとのコラボレーションに満足げな笑みを口の端に浮かべつつ(に違いない)しばらく、その余韻を楽しみながら、ソロフレーズを弾かず、端正なコードワークで場を静める。ショーター歓迎会の終わり。

ベルリンの後、「プラグド・ニッケル」でのライブが有名であるが、そこでも枯葉は演奏されている。スタジオ・レコーディングでは、既にショーター・オリジナル路線が始まっている、という時期である。その枯葉は、ベルリンからまた一歩進み、非常にストイックでクールなビートの上でショーターがこれは自分のバンドだ、といわんばかりに思う存分暴れている。またマイルスは時代を手に入れた。


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