キャロル・キングの大名盤「タペストリー」。ロック雑誌「ミュージックライフ」で5つ星でした。どの曲もすばらしい。特にこの曲を選んだのは、浮遊感のあるメロディーに加えてMajor7thコードとWMajor7th/Xという分数コードがとても美しいから。特に後者のコードの持つ響きは、この極私的音楽ノートでもあちこちでふれているように少年期の私の心をがっちりと捉えた。1971年(発売年)という政情不安で無力感のただよう時代の中で、ふんわりと生きていこうとする若者のライフスタイルをそのコードは表現していたとも思える。カントリー・スタイル、洗いざらしのシャツにベスト。ジーンズ。カーリーヘア。猫。アコースティック・ギター。これにゲタがプラスされると4畳半フォークとなるわけだが、カリフォルニアにはゲタはない。日本のフォークにMajor7thはない。
こういったポップスの中におけるジャジーな音使いはキャロル・キングをはじめ、ジェームス・テイラーやザ・バンド、ドゥービーなどよって広まっていく。日本では細野晴臣や荒井由美(「雨のステーション」などに影響が色濃い)など新しいスタイルのシンガー・ソングライターがそれに影響されていく。そしてこういうスタイルは日本ではいつしかニュー・ミュージックと言われるようになった。タペストリーでもそうだが、ラス・カンケルやダニー・クーチなど、ジャジーな演奏もでき、かつファンキーな16ビートも刻め、かつセンスのよいフェイクのできるミュージシャンが必要になった。日本のはっぴいえんどはこの動きを追った。そしてその動きは、キャラメル・ママ、シュガー・ベイブ、ティンパン・アレイと優秀なミュージシャンを次々にシーンに登場させる。しかし、こういったスタイルをさしてニューミュージックと言っていたものなのだが、何時の間にやら音楽評論家 富澤一誠によってフォーク全体がニューミュージックと呼ばれるようになり、さだまさしがニューミュージックの貴公子と呼ばれるに到ってニューミュージックは死語となる。(そういえばシンガー&ソングライターもいつのまにか死語になった)
ピアノ弾き語りといえばキャロル・キングとエルトン・ジョンだが、エルトン・ジョンがクリシェとアルペジオを組み合わせたカントリー風なのに比べ、キャロル・キングのピアノは前述のジャジーなコードと隙間のあるパターンで都会的なセンチメンタリズムを演出している。現代ポピュラーのピアノ弾き語り達を聞くと、やはりキャロル・スタイルの方が主流だ。このセンチメンタルなピアノと、ちょっと鼻にかかった醤油っぽいハスキーボイス(古い言いまわし)がブレンドされると、まさに向かいのアパートから失意のネーチャンが歌ってる風の身近さがかもし出される。この辺さしづめ日本だったらユーミンということになるわけだが、こういった都会的ハーモニーと等身大のメッセージ(出てくる出てくる死語のオンパレード)が当時の若者に新しい中流ライフスタイルの予感とともにしっくりした、ということだろう。しかし、当のキャロル本人はロックンロール好きだったりして、今だにステージではロコモーションとかスマック・ウォーター・ジャックとかを大団円にやって盛りあがっている。この路線は私はあまり興味がない。
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